愚好録

感想文

韓国ドラマ「アンナ ディレクターズカット版」感想

(ネタバレあり)

家が裕福でない賢く器用で意志の強い女性が沢山の嘘と努力で綱渡りな人生を駆け上がっていく様が淡々と力強く描かれており、とても面白くて8話一気に視聴した。パワハラや女性蔑視や家父長制等の社会問題が随所に散りばめられていた。

スジ氏の演技は初めて拝見したが難しい役を見事に演じていて凄く魅了された。嘘で塗り固め常に感情を押し殺し表に出さない主人公の心の機微をとても丁寧に表現されており引き込まれた。役に真摯に向き合っている俳優さんだなと感じた。不幸の中にいる時でさえ憐れに見えないどころかより輝きを放つ姿が魅力的だった。波瀾万丈な人生を歩み不幸だとも思える主人公がとても魅力的に見えたのはスジ氏の魅力と演技力のおかげだと思う。

その他の配役も全員本当に素晴らしかった。チョンウンチェ氏は「客ザゲスト」の時とは180度異なる奔放で傲慢な令嬢役を見事に演じておられてさらに好きになった。主人公の夫役のキムジュンハン氏は「ある春の夜に」「賢い医師生活」などで演技力に信頼はあったが貧しい生まれながら権力者側へのし上がろうとする野心家のIT社長役はハマり役で素晴らしかった。主人公の秘書役の女優の方も初めて拝見したがすごくぴったりだったし、主人公の幼少期(バレエ時代)を演じた子役の方もとても魅力的だった。作品のクオリティの高さはキャスティングの賜物だと強く感じる。

主要キャストの殆どが女性でありそれぞれの境遇や背景はバラバラでありながらも様々な女性の生きづらさが描かれており、女性による女性のための物語だった。

主人公の言動だけみると自己中心的で身勝手にも思えるが彼女の背景が丁寧に描かれていた事で彼女の行動原理が理解できたし共感もできた。その他の登場人物も同じく、背景が描かれていることでより感情移入できた。

また主人公をはじめ他の登場人物もあまり感情的になるシーンなどが無く各々の腹の底がよめないところがとても良かった。

印象的なセリフが多々あり記憶に残った。

主人公とジウォン先輩の関係性も良かった。境遇と意志を貫く性格は似ている2人が正反対の人生を歩んでいく中でもお互いを信頼して気にかけていおり主人公にとっての唯一信頼できる他人だった。

ユミがアンナの人生を盗んで生き、偽りのアンナについている秘書ユミが最後アンナの代わりにバッシングを受けているのが皮肉でもあり印象的だった。アンナの人生を脱ぎ捨てたユミが罪を償うわけでもなくあっけらかんと生きている姿で終わるのも凄く良かった。

毎話の冒頭シーンが美しく、ストーリーを表現する効果的なカメラワークや沢山差し込まれるカット等の演出に引き込まれた。

劇中のクラシック音楽はストーリーと関係する意味のある選曲だがシーンとは合ってないようにも思えたし日本ドラマだとありがちなクラシックの挿入のように感じ古臭く思えた。

アンナは実在の人物がモチーフになっていると知り妙に納得してしまった。アンナの嘘は大胆ではあるもののあり得てしまうリアリティさがあった。家柄や出身地や学歴を最重要視するコネ社会がアンナという人物にリアリティを持たせていた。

アンナの制作にあたって配信会社Coupang Playがイジュヨン監督に了承を得ずに作品を勝手に短く編集し公開したことで騒動となったが監督及びスタッフへの敬意を欠いた屈辱的な行為は組織的なパワハラだと感じたし、監督が女性ではなく男性だったら同じことが起こったのかとも考えずにはいられない。アンナで描かれた“パワハラ”や“女性がどれだけ地位を築こうとも容易く蔑ろにされる”ことをまさに表している。現在は監督の意図に反して公開されたオリジナル版からは監督及びスタッフ数名のクレジットは削除されている。

アマプラにある配信会社版とディレクターズカット版のサムネイルの違いからしても配信会社と監督の意図が全く違うことがわかる。配信会社版のサムネイルは本当に酷い。

もう一度見返したいと思えるほどに面白くて好みの作品だった。